ガラスブロックの家(旧石原邸)/安藤忠雄
大阪市内の大通りから少し入った雑然とした街中の一角にある、1978年に建てられた安藤忠雄氏設計の住宅。
ささやかなコンクリートの箱に、光庭を中心とした段状のガラスブロックで構成された別世界がおさめられている。
この住宅の2年前に建てられた住吉の長屋と同じく、周囲の環境と住まいを壁によって切り離し、内部に中庭を中心とした小宇宙を形成した。
住宅内部に足を踏み入れると、螺旋階段を囲む半円筒のガラスブロックの自立壁から柔らかな光を取り込む半屋外的な空間がひろがる。
陰影のあるドライエリアのようなホールが、この先にひろがる別世界への期待を高める。
この住宅の中心、各居室に面した中庭は段状に拡がるガラスブロックに覆われ、階段を内包する半円筒の壁を中心に美しいシンメトリーを描く。
中庭は広さ8畳ほどな上、3層に囲まれた空間だが、段状の構成と半透視のガラスブロックにより圧迫感を感じることはなかった。
各居室はコンクリート打ち放しの壁とガラスブロックの親和性の高い構成。住空間としては冷たい印象になりかねない組み合わせだが、造作家具やナラ材のフローリングを用いることでデザイン性の高い空間に仕上がっている。
小上がりの框上の和室は躯体よりひと回り小さく建物内に置かれたように配置され、ガラスブロックに合わせた障子戸が空間を緩衝し、この住宅で最も異質な和の空間をガラスブロックの住宅と見事に調和させている。
元々、二世帯住宅として計画されたこともあり、独立した各居室や各階に設置された水回り等、この規模の安藤氏の住宅にしては機能的な要求を十分に満たしている。
その上で、外部を拒絶するかのような壁の内側に、ガラスブロックの中庭や半屋外的エントランスホール・独立壁に覆われた屋外階段と、安藤氏の住宅に対する挑戦も損なわれていない。
このサイズまでの住宅を制約の中で作り上げることに安藤氏自身が面白さを感じていることを垣間見ることが出来る名作であった。
そして竣工から40年以上経過しても、現代でも見ることが稀なほど見事な住宅を良好な状態で維持したこれまでの住み手と、今も実際に生活している空間を公開された建築史家倉方俊輔氏に敬意を表したい。
作成者: Hiromitsu Morimoto