大阪中之島美術館/遠藤克彦
大阪・中之島4丁目、阪大医学部の跡地に建設された美術館。
1983年に大阪市制100周年記念事業の一つとして構想が発表され、1990年に準備室が開設。紆余曲折を経て、実に30年以上の年月を費やし開館に至った。
所蔵する美術品は、モディリアーニや佐伯祐三など国内外の近現代美術を中心に6000点を超えるほか、関西の前衛作家によって形成され中之島に展示室も開設していた「具体美術協会」に関する資料など、近現代デザイン史の重要な作品資料も豊富に所蔵する。
建物はプレキャストコンクリートパネルに囲まれたシンプルな黒いキューブと、内部を大胆にくり抜いた「パッサージュ」が大きな特徴。
黒いキューブ直下の2階外周のほとんどを構成するガラスウォールはキューブより建物中心側に収められており、人工地盤状の部分を土台として黒く巨大な直方体が浮かんでいるようなプロポーションを演出している。
この建築の核となるパッサージュとは、フランス語で歩行者専用のアーケードで囲われた通路や自由に歩ける小径のことを指し、「展覧会入場者だけでなく幅広い世代の人が誰でも気軽に自由に訪れることのできる賑わいのあるオープンな屋内空間」としてコンペの設計要件になっていた項目。
パッサージュは1階から5階まで吹き抜ける大空間に、1,2階をゆるやかに繋ぐ大きな階段や展示室へと伸びる長いエスカレーターが立体的に交差し、天井からは柔らかな自然光が降りそそぐ。
ガラスウォールに囲まれたメインの動線となる2階部分は、ふんだんに植栽の施された建物周囲の回廊や、敷地北側の堂島川に開けた芝生広場との繋がりを持たせ人々を誘う。
周囲からパッサージュへの動線は、南側のNMAOや市立科学館、東側のダイビルに近接する中之島四季の丘からは歩道橋によってダイレクトに繋がり、中之島通りからは高低差を緩やかにつなげた芝生広場を介して周囲の人々を誘う。
一目見ると大きなキューブが区画を分断して建っているように感じるが、パッサージュや建物周囲の歩行者デッキが周辺施設のハブとなるような計画がなされている。
展示室のある上階のパッサージュは、4階に東西、5階に南北方向に大開口が設けられ、東西・南北それぞれの開口部を繋ぐように動線が建物を貫く。
西側の開口にはジャイアント・トらやんが展示されている。
1階にはショップ・レストラン・カフェと演劇など様々な用途に使用できる300人収容のホールが設置される。
なんと言っても楽しみなのは、2022年3月18日オープン予定の北欧デンマーク発の世界的インテリアショップ「HAY」。東京に続き日本2店舗目となるこの店舗が、梅田や心斎橋ではなく中之島の中心からもやや距離のあるこの場所に出店を決めたのは、この美術館が新しい文化拠点として水都大阪のシンボルとなる期待の現れだろう。
堂島川と土佐堀川に挟まれた約3キロの細長い中洲である中之島は、水都大阪の象徴として数多くの文化施設を有している。
大阪中之島美術館のある中之島西地区にも、国立国際美術館や市立科学館があり、家具やプロダクト制作を手掛けるgrafも店を構えるなど、大阪の文化拠点としてのポテンシャルを大いに秘めている。
近年、ダイビル本館の建て替えや周辺整備、三井ガーデンホテルの開業で注目が集まる中、地区のランドマークのような存在感を示すこの建築が人々を呼び込み、回遊性の高いパッサージュによって周囲に賑わいをもたらす役目を担ってくれそうだ。
作成者: Hiromitsu Morimoto