読書の森 ~ 松原市民図書館/ MARU。architecture
古墳やため池が点在する松原市に建つ市民図書館。
老朽化した既存図書館による運営を見直し、中央館機能を持つ新図書館の建設が進められた。
建設予定地のため池は当初埋め立てられる計画もあったが、建物を池の中に配置、古墳に見立てた「水の中に建つ建築」が実現した。
内部は回遊性のある3層スキップフロア。 エントランスから1メートルほど下がった1階部分は大人の書架、2階には雑誌類が置かれた閲覧スペースと吹き抜けを渡る階段の先の飲食コーナー、そして3階は子どもたちのためのお話室やくつろぎスペース、絵本や図鑑がならぶ背の低い本棚が配され、上に行くほどにぎやかになる。
子どもたちが自由に図書館を楽しめるように音を遮断する配置にもなっている。
写真下: 3階くつろぎスペース脇にあるファニチャーボックス内部は吹き抜けになっていて、低い位置に設置された窓からは子どもたちが下の飲食スペースを見下ろすことが出来る。
3階は図書館という感じはなく楽しい遊び場のよう。子どもたちが静かに過ごすことは難しそうだ。
さらに緑化された屋上へと上がれるのだが、この屋上には子どもたちが本を手に取り外に出ることが出来るのだそう。
外観は目の荒いベニヤで型枠を組んだムラのあるカラーコンクリート。
土木的な厚い壁の圧迫感を軽減するため斜めに切り取られた壁で構成される赤みを帯びた変形六角形の建物が、ため池の上に建っている。
南側前面道路の幅員がやや狭いこともあり、見る位置によっては要塞のようだと言う地元の方の声も聞こえたが、色の選択や造形の工夫により、建物のボリュームに比べて非常にコンパクトに仕上がっている印象を受けた。
また、周囲に水路を巡らせるように建物を配置し池の水の循環を促している。このため池の水は今も農業用水として利用されている。池の周辺には元々小さな公園やベンチも設置されており、建物も親水公園の一部として計画された。
周辺に点在する古墳は人工物だか、長い時間を経てまちに溶け込んでいる。そこから参照し池の中に立つ古墳のイメージで計画は始まった。
以下の建築家テキスト参照
” 建物は超人工物であり超自然的存在として、周辺に点在する古墳のように建築のスケールを超え土木的につくることで、人工物を超えた一種の自然物のとして永い時間を受け止める建築を目指した。„
土木と建築の中間的なボリュームだという外壁のコンクリート厚は600mmにも達し、この外周部により耐震性を確保している。
分厚いコンクリートの断熱性によって内外の仕上げを打ち放しとすることで工期短縮も実現している。
1階開口部はため池で冷やされた風を取り入れ、春秋季の自然換気を実現する。1階の書架も風の流れを遮らないように配置されており、ここから吹き抜けを介して上階まで館内全体にまんべんなく通風し空調の稼働を抑制する。
ほか、冷温水を床下のコンクリートに張り巡らせたパイプに循環させ温度調節を行うなど、極力エアコンに頼らない形で居心地のいい空間をつくる工夫が見られる。
この1階西側の開口は風だけではなく、水面に反射した光のゆらぎや自然光によりとても心地の良いスペースとなっており、設置されたカウンターや大きな机では訪れた人々がそれぞれにゆったりとした時を過ごしている。
隅々まで抜け目なくデザインされた建物内外や、オリジナルの家具・什器類とともに目を惹きつけられるのが、各所に設置された秀逸で分かりやすいサインの数々。
1階書架のサインは離れた位置から得られる情報量が多く、目的の場所に近づくと詳細な情報が得られる。そして中央にはPCも設置されていて、本を探して迷うことはほとんどなさそう。
力強い建築コンセプトの元、進められたプロジェクトは、当初の提案のほとんどが実現したという。
永く親しまれるまちの中心としての役割を果たせるかどうかは、これからの運営にバトンタッチする形になってしまうが、建築面での役割は大いに果たしていると感じる。
一般的には、壁一面に書架を施したビジュアル重視の図書施設が持て囃されているが、機能性のみならずデザイン面においても存分に豊かさを体感できるこの建築に人々が押し寄せることになっても何ら不思議はない。
平面図
をタップで写真表示。
作成者: Hiromitsu Morimoto