住宅の近代化を目指した大正時代の博覧会
大正11年、大阪豊能郡箕面村で開催された実物住宅を示した博覧会の跡地。近隣には、明治44年に箕面有馬鉄道(現在の阪急)が沿線住宅開発に着手した中流層向けの「櫻井住宅地」があり、当時の交通事情からして都心までのアクセスが容易とはいえなかったものの、郊外のベッドタウンとしての可能性を大いに秘めた北摂モダニズムの新開地として注目を集めた。
博覧会では大正デモクラシーの波に乗って生活様式や建築様式を時代に即した形に改造することを目指した住宅が25戸建設され、会期後その全てを分譲、2015年1月現在も7戸が現存する。
- 現存
- 現存(博覧会翌年に建てられた住宅)
※2015年1月時点
※日本建築協会出品作の施工者は全て大阪住宅経営
※大阪住宅経営作No.9の平屋を除き全て木造2階建
※出品者自身が設計・施工した作品は記述を省略
※2015年1月時点
※日本建築協会出品作の施工者は全て大阪住宅経営
※大阪住宅経営作No.9の平屋を除き全て木造2階建
※出品者自身が設計・施工した作品は記述を省略
博覧会会場の模型
No. | 出品者 | 設計/施工 | 様式 | 延面積 |
---|---|---|---|---|
1 | 日本建築協会 第1号 | 原案: 谷本甲子三 | ミッション | 35.5坪 |
2 | 日本建築協会 第2号 | コッテージ | 35.5 | |
3 | 日本建築協会 第3号 | +早良俊夫 | バンガロー | 34.7 |
4 | 日本建築協会 第4号 | バンガロー | 36.0 | |
5 | 日本建築協会 第5号 | コッテージ | 35.2 | |
6 | 日本建築協会 第6号 | 原案: 碓井英隆 | コッテージ | 36.0 |
7 | 日本建築協会 第7号 | バンガロー | 36.5 | |
8 | 日本建築協会 第8号 | コッテージ | 35.5 | |
9 | 大阪住宅経営 | 和洋折衷 | 16.0 | |
10 | 眞水三橋建築事務所 | 施工: 上瀧組 | 準バンガロー | 31.1 |
11 | 葛野建築事務所 | 葛野壮一郎/八尾竹次郎 | 和風バンガロー | 40.8 |
12 | 横田組 | 近世式 | 34.7 | |
13 | 清水組大阪支店 | 和洋折衷 | 34.7 | |
14 | 大阪橋本組 | バンガロー | 61.8 | |
15 | 片岡建築事務所(甲号) | 施工: 大林組 | 和洋折衷 | 39.3 |
16 | 錢高組 | バンガロー | 53.0 | |
17 | 大林組(A号) | 和風 | 58.5 | |
18 | 鴻池組 | 和洋折衷 | 38.6 | |
19 | 横河時介 | 施工: 直営 | 米国式コッテージ | 60.0 |
20 | あめりか屋 | 西村辰次郎 | あめりか屋式* | 55.0 |
21 | 田村地所部 | 田村眞策/ 直営 | ドイツ近世式 | 42.3 |
22 | 片岡建築事務所(乙号) | 施工: 竹中工務店 | 和洋折衷 | 38.0 |
23 | 大林組(B号) | スパニッシュ | 56.0 | |
24 | 竹中工務店(B号) | ドメスチック | 45.8 | |
25 | 竹中工務店(A号) | ドメスチック | 54.0 | |
ア | 今戸家住宅 | 奥戸大蔵/あめりか屋 | あめりか屋式 | 57.0 |
イ | 博覧会事務局 |
*橋口信助によりアメリカから輸入された組み立て式住宅を基礎に、日本の風土に即した伝統的建築技術を西洋館に取り入れた和洋折衷式。標準的な間取りを数種類定め大量生産も可能にする規格住宅。
博覧会開催に際して行われたコンペで1等を獲得した日本建築協会第1号住宅(澤村家住宅)も現存している
片岡安を中心として関西の建築界を牽引すべく発足した「日本建築協会」が主体となって計画は進められ、椅子式生活様式・公私の部屋の分離・暖房設備設置の3点を盛り込み、積極的に住宅の近代化を推し進めた最先端の改造住宅が集まった。
日本建築協会第3号住宅(図: No.3)
現存する日本建築協会第3号住宅(原案: 早良俊夫)のように、それまで家の中で重きを置かれていた客間を廃止し1階を居間や食堂を中心とした家族の空間として使用、2階に主寝室など個々人の居室を配置した間取りも多く採用されているが、これは現代の郊外の建売住宅やハウスメーカーのごく一般的なプランとして確立されているものと似通っており、100年近く経過した今も用いられる住まいの形がすでに提示されている。その中でも博覧会後に分譲されることを踏まえ寝室などの個人部屋に畳式を多く採用しており、急激な生活の洋風化を盛り込んだ夢の住宅パビリオンではなく、実生活に即した堅実な住まいとして計画されている。
その25戸のうちの多くも9月21日の開会日には未竣工であったため、10月1日まで入場料を段階的に無料および半額徴収へと変更して運営された。
それでも博覧会は大盛況で、当初9月21日から11月20日までの60日間の予定であった会期を26日まで延長し7万人以上の入場者を集め、当時の人々の新しい時代へ向かう高揚感と住宅の近代化を目指したこの博覧会が思惑がぴったりと一致したことをあらわしている。
現存する出品作品は年々数を減らし2015年1月現在では7戸の住宅を残すのみとなったが、展覧会翌年に建てられた今戸家住宅をはじめ、趣き深い住宅を目にすることができる。
箕面の山を望む丘陵地に位置した好立地にあって博覧会後も趣のある住宅が立ち並び、歴史的な景観を残している。
近年、跡地には現代的な建物も多くなり博覧会当時の住宅や生垣の美しい街並みにより形成される歴史的な景観も風前の灯のように思えるが、新しい建築が軒を連ねてもこの場所の成り立ちに興味を惹かれるような魅力的な町であり続けてほしい。
住宅改造博覧会 建築データ
会場所在地
大阪府箕面市桜ヶ丘2丁目
開催期間
1922年(大正11年)9月21日~11月26日
面積
16,500㎡(住宅博会場)
出展数
25館
来場者数
約70,000人
入場料
観覧券 - 大人: 30銭 小人: 10銭
特別観覧券 - 大人: 50銭 小人: 20銭
特別観覧券 - 大人: 50銭 小人: 20銭
主催
日本建築協会
備考
住宅の現存/非現存情報は全て2015年1月時点
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