阿倍野歩道橋
完成後40年以上が経過し老朽化した阿倍野歩道橋の架け替えプロジェクト。
平成25年4月24日全面開通。
交通量の多いあべの筋とあびこ筋の交差する近鉄前交差点に位置し、ゴールの見えてきた金塚地区の阿倍野再開発事業やあべのハルカスの竣工を控え、さらに重要な動線となる。
2011年のオープン以来好調な「あべのキューズモール」や、完成すれば日本一の高さのビルとなる「あべのハルカス」などと直結し、あべの筋の拡幅に伴い移動する「阪堺電車天王寺駅前駅」ホームとの連絡を含め、3基のエレベータを設置。老朽化とともに問題となっていたバリアフリー化をクリアした。
設計・デザインはコンペにより選出されたが、その後の計画は何度も壁にぶつかり、市の当初の見通しの甘さが指摘された。
はじめの問題は、交通量の多い交差点で旧歩道橋を解体・撤去しながら、複雑な構造物を施工する管理の難しさからか、予定価格を引き上げるなどの条件変更を経て、施工業者が決定するまでに4度目の入札を要し、予定を1年以上オーバー。
その後も、杭を打ち込む箇所と地下鉄躯体の干渉による施工変更や、昭和10年代に建造された構造物が見つかるなど、増工や修正設計が重なることで、建設費も膨らみ工期も大幅に延びてしまった。
とはいえ、コンペ案を選定した当初の試算が諸問題を見越した妥当なものであったとすれば、他のコンペ案に比べデザイン面で目を見張るものがあった本案が日の目を見ることは無かっただろう。
abenoの頭文字aを図案化した形状を地上から視認することはできないが、トラスの骨格と変化のついた屋根の独創的なデザインは、圧倒的な存在感でそびえるハルカスにも見劣りしない。
大小さまざまな三角形が組み合わされた複雑な変化を見せる屋根には光を透過する膜素材が採用され、自然光やネオンの光によって立体的な姿を際立たせている。
その複雑な勾配を利用して、排水・集水機能を持ち合わせるなど、デザインの邪魔になるような設備が露出することを最小限にとどめている。
綿密な基礎工事により、少ない橋脚で大きな構造物を支えることを可能とし、周囲のビルと脚部が重なるような目立たない位置に配置、地上部分を白とグレーの色使いとすることで歩道橋が宙に浮いたようなイメージを実現。
創造的なデザインは、高度な設計と技術力により裏打ちされている。
高い技術力を有した土木構造物であり、優れた建築デザインを持ち合わせた新しい歩道橋は、高層ビルを乱立させただけでは成しえない、未来的な都市像にはかかせない立体的な動線を形作り、再開発の進む天王寺・阿倍野地区の象徴としてふさわしいものだと感じることができる。
作成者: Hiromitsu Morimoto